本屋、はじめました。新刊書店 Title 開業の記録
今、個人店において<みんな>のための店ということは、結局誰のための店でもなくなっていることを現しているのではないでしょうか。
<みんな>のために店をはじめ、<みんな>に好かれよう、喜ばれようと商品を仕入れる。それは商売として間違っていません。
けれど、なんのこだわりもなく売れ筋をチェックし、データを元に売れている商品をランキングをつけて並べるだけ。
どの店でも同じ商品が並んでいる。まるでどこを切っても同じ絵がでてくる金太郎飴みたいに。
そこに大手チェーンや安く買えるインターネット通販が登場する。すると<みんな>は、そちらにすべて奪われてしまう。
これって本屋だけにかぎりませんよね。
辻山良雄さんの「本屋、はじめました 新刊書店 Title 開業の記録」を読みました。
町の本屋がどんどん潰れています。わたしの住む清水区でも、小さいころからあった戸田書店、多賀書店が閉店し、大手チェーンの谷島屋が消え、とうとうツタヤまでなくなります。
そんな本屋に逆風が吹いている時代、辻山さんは新刊書店を2016年にオープンさせました。ここ数年、個人が新刊書店を開いたケースはほとんどないというのに。
【修行が蓄積をつくる】
本の巻末に「Title事業計画書」と「東西本屋店主対談」が収録されています。じっさいに開業したお店の事業計画書が見られるのはとても貴重です。
また、いきなり開業せず何年かどこかで修行する必要性も教えてくれます。
修行とはノウハウではなく、人間関係や信頼関係、勘や感覚は数と時間と経験を重ねなければできなかったり、手に入りません。蓄積は修行でなければ手に入らないのです。
【開業準備を誌上で追体験できる】
店の場所選び、探し方、店名の決め方、スチール本棚といった什器の仕入れ方、利益率の大切さ、SNS活用法、など店舗が開業するまでの経験が誌面で体験できます。
個人的にはホームページ、ツイッター、ブログ、通販サイトといったインターネットを使ったサービスの利用法が参考になりました。
【誰に商品を売るか】
本を誰に売るか・・・という問いかけがありました。これから本を読む人よりも、これまで本を買ってくれた人に売るという結論でした。
どんな商品でも買ったことのない人に売るのが一番大変です。けれど、その商品を買ったことのある人、買う文化がある人にまた売る労力や手間は買ったことのない人に売るよりも簡単です。
新規客を追い求めるなってことではなく、常連客を育てることで経営がとても楽になります。
また店に落ち着いた雰囲気を出すことで万引きや山賊(大声で騒ぐ人間)を寄せつけない、など見習うべきところはたくさんあります。
【商品の仕入れのこだわり】
Titleは通常の店では主力商品になるコミックやライトノベルを扱いません。理由は、それらの本に関して自分が詳しい説明をまったくできないから。
いくらデータで売れていても、自分が読んでいない、良いと思ってもいない、良さがわからないのに売っていると、本当に好きな人には「あ、こいつ。わかってないな」と見抜かれます。
ならば自分がよく知っていて、自信をもっておススメできるものを置いたほうがいい。
これ、ホビーショップでも同じです。
売れているから。人気だから。どこかのランキングで上位だから。そんな商品ばかり仕入れても、仕入れた本人がその商品に思い入れがなければお客様にはバレます。わかります。
【まとめ】
辻山さんの本屋、Titleが成功したのは辻山さんと奥さんの努力はもちろん、人とのつながりが大きいと感じました。文章からも辻山さんの真面目さ、本が好きなことが伝わってきます。
新刊書店、古本屋、カフェなどリアル店舗の開業に興味がある人は読んで損のない良書です。