インベスターZ
競争なんかしなくていい。
繁盛しなくてもいい。
行列ができていつも満員なんて御免こうむる。
マネーの拳の作者、三田紀房さんの「インベスターZ」全21巻を読みました。
ある女性が、仕事で知り合った喫茶店のオーナーから居抜きで喫茶店を継がないか・・・と話をもちかけられます。この居抜き起業の条件は「看板と店舗とお客さんを丸ごと引き継いで売上げの10%を支払う」ものでした。
確かにこの条件であれば、店を借りたり内装を工事する初期投資がかからないので失敗しても損害は少ない。
けれど食事を出さない、コーヒーだけの純喫茶店では儲かるイメージが湧かない女性の娘は、その喫茶店のオーナーに詳しく話を聞きにいきます。
娘はオーナーに質問します。
コーヒーチェーンやコンビニとの競争が激しいのに本当にやっていけるのか。
オーナーは答えます。「競争なんかしなくていい。繁盛しなくてもいい。行列ができていつも満員なんて御免こうむる」と。
このセリフには一体、どんな意味が込められているのでしょうか。
【個人商店の3S(スリーエス)】
喫茶店のオーナーは続けます。
「個人商店はね。スリム・シンプル・スロー。この3Sが一番」
・・・と。
スリムとは、極力少人数で営業し低コストであること。
シンプルとは、扱う商品が最小限であること。
スローとは、あまり忙しくないこと。
オーナーは続けます。
みんな商売というものを勘違いしている。個人商店にとって成長と拡大をして商売を大きくしようとすれば、結果的に商売は失敗する。
では、ホビーショップにこの3S(スリーエス)を当てはめてみましょう。
>>スリムであれ
駅前のような一等地に広い面積の店舗を借りて、たくさんの商品を仕入れて並べたい。そのために従業員も雇いたい。
個人店がそう考えたらどうなるでしょう。家賃が高くなり、仕入れ費用もかかります。人を雇えばその給料だって払わなければいけません。
スリムを目標にすれば店舗面積はそれほど大きくなく、商品も絞り、従業員も雇わず一人店長または家族にお願いする。これなら最小限の出費ですみます。
>>シンプルであれ
大手チェーン店に対抗して、プラモデル、フィギュア、塗料、工具となんでもかんでも仕入れていれば、どこにでもある中途半端な店のできあがり。誰がきても魅力のないショップが完成します。
個人の専門店はたった一つ、どこにも負けない個性、シンプルさが必要です。専門外の商品をあれもこれもと手をつけるより、専門分野を極めれば店の強みだって際立ちます。美少女フィギュア専門店なら美少女フィギュア、ラーメン屋ならラーメン、喫茶店ならコーヒーを極めましょう。
>>スローであれ
あまり忙しくないこと。
若ければともかく、中年ならば飲食店の場合、料理がメインにすると体力がもちません。パンケーキやパスタを出せば仕入れと仕事量が増えて経営の負担になります。
またコンビニのように営業時間を長くすればするほど体を休めることもできなくなります。
常時、店内に人がいても売れるとは限らないのがホビーショップ。とくに買わなくても長居できる、居座れる特性がホビーショップ店主の時間と体力を奪います。
>>商売とはマーケット管理である
喫茶店のオーナーは続けます。
つまり商売というのはね、マーケット管理なんだよ。
どういうお客さんにどういう商品を提供するのか。
どうやって適切な商品やサービスのサイクルを作り、それを円滑に回していくのか。
このマーケット管理さえしっかり行っていれば、店を満員にする必要はない。
と。
喫茶店であれば、常に3人、お客さんがいる状態を作ればいい。600円のコーヒーの原価は20円。つまり、1時間に1800円の売上になる。10時間働けば、1日の売上は18000円。週6日営業で月商約50万円。利益率が非常に高いうえ、労働も軽微なため高齢者でもできる。
さらに居抜き起業なので月に売上の10%の5万円をオーナーに収めるだけ。
【スマホが大型店と個人店の差をなくした】
ガラパゴス携帯だったころ、人々の店を探す基準は「大手」であることでした。情報が手軽に入らないため、ふと目に付いたり、名前を知っているチェーン店に入っていました。
ホビーショップであればアニメイト、とらのあな、メロンブックス、コトブキヤ、ソフマップなどなど。
ところが簡単に情報が手に入るスマートフォンが普及すると、人々の行動は変化しました。まず検索。それによって個人店でもお客様にみつけてもらえるようになりました。
なによりもスマホとインターネット、SNS時代が到来したことで、行くまでわからなかったお店の雰囲気や評判がわかるようになりました。店主の考え方、個性、店の品ぞろえ、評価などが一目瞭然です。
たとえば在庫。わたしは自分のツイッターでたまに商品の在庫を写真つきでつぶやいています。「○○の在庫あります」「人気の○○あります」のように。こうすることで店に行く前にお客様は在庫の有無がわかります。わざわざ店に行って在庫がない、売り切れていたというリスクをお客様は回避できるのです。
評価に関しては、あなたやあなたの店に悪意をもった買わない客でもない人間がつけることができてしまうのは問題です。しかし、自分の眼で確認もせず他人の評価だけですべてを決めてしまう人がお客様になるでしょうか。もし店に来たとしても買わないかもしれません。だから、あまり気にする必要はありません。
おっと脱線しました。このようにインターネットとスマートフォン、SNSの普及によって個人店でも大手に負けない情報を発信する手段を手に入れたのです。
【スマホ時代の集客方法】
誰でも世界に向けて情報を発信できる時代。あなたの店の宣伝も無料でいくらでもできます。ただし、一つだけ気をつけてください。
それは、あなたのお客様でない人間まで集めてしまうリスクです。
残念なことに、世の中にはあなたがどんなに接客しても、優しくしても、心をつかっても「買わない」人がいます。ほかにも暇つぶし、冷やかし、万引き、店員に相手をしてほしいだけの困ったチャンも来ます。
そんな人にかぎってお客様の顔をしてやってきます。
明るい、愛想がいい、やたらしゃべる、質問を繰り返す・・・。本当に商品を買う人は黙って買います。なぜなら金を使うという行為は痛みを伴うから。
情報を自分でいくらでも発信できる環境と時代だからこそ、お客様は徹底的に絞りましょう。わたしであれば「店に来て美少女フィギュアを買う」お客様以外を集める気はありません。
【まとめ】
この漫画の内容のほとんどが株やFXなどの投資に関するものです。リアル店舗の開業に役立つ喫茶店の話が読みたければ、11巻がいちばん参考になります。
ただ生き方やビジネスの考え方など、とてもタメになります。1巻にもたくさんの名言がみつかりました。一部引用します。
・ゲームに参加したプレイヤーなのに勝負がついてから実はよく知りませんでしたは通用しない
・ルールもロクに知らないのに首を突っ込むヤツは結局はカモになる
・的外れなところでガンバることに価値なんてない
・投資にルールなんてない。安く買って高く売る。これしかない
ね?スゴイでしょ。三田さんの著書を読むたび、わたしは「ビジネスって甘くない」と考えさせられます。