模型店の開業は新たなステージに進む
全国各地にある寂れた商店街で、一番最後まで生き残るのはスナックで、理由は魚屋さんや肉屋さんのようにコンテンツを売っているのではなく、そこで過ごす時間や体験を売っているから。
こればっかりは、近所に新しくできたショッピングモールでも太刀打ちできない。(中略)そもそもスナックに通っている人達は「乾きもの」のクオリティーを求めてスナックに通っているわけではないから。
(出典 主婦と生活社 西野亮廣・著 魔法のコンパス)
これ、魚屋や肉屋を模型店に置き換えたらどうでしょう。思い当たるところがありませんか。はっとしませんか。
ではスナックを「模型店」に置き換えてみましょう。乾きものを「プラモデル」や「ボードゲーム」にしたらどうでしょう。あなたのお店に来るお客様が「そこで過ごす時間」や「体験」を求めてくるとしたら・・・。
大手のショッピングモールだろうが、安いインターネット通販だろうが勝てると思いませんか。
【模型店とは】
模型店とは、プラモデルなどの模型を主体に取り扱う小売店のこと。
おもに自分で組み立てや塗装、接着をするプラモデルや鉄道模型、エアガン、ラジコン各種、工具や塗料を取り扱っています。店主の好みや地域の客層、お客様からのリクエストによってトレーディングカードや玩具なども扱う店もあり。
まさしく多種多様かつ千差万別です。
【模型店の現状】
全国の模型店が次々に閉店しています。潰れています。
そこそこ儲かっているし、続けようと思えば続けられる。けれど店主の高齢化や後継者もいないという理由で店を閉めるのなら救いがあります。
しかし、客が来ない。客が来ても買わない。大手量販店があり、そっちでみんな買ってしまう。インターネット通販のほうが安いから売れない。売れないからお店を閉めたあとにコンビニでアルバイトをして稼ぎ、赤字を埋め続ける。そうしていつか体も心も疲れてしまいます。
多くの模型店が閉店する理由は後者ではないでしょうか。
【開業前にインターネットで収益の柱を1本作っておく】
えいや!と一念発起してやっと始めた模型店。けれど、お客様がきません。何日も何日も来店客数がゼロの日が続きます。たまにお客様が来ても売れません。
やけに明るく愛想のよい人が来たので、買ってもらえるかも!?と考え、一生懸命おしゃべりに2時間ほど付き合うあなた。けれど、その人は「楽しかったです。また来ます」と何も買わずに帰る困ったチャンでした。
しかも困ったチャンは、何も買わなくても相手をしてもらえるとわかると店に何度もやってきて長居するようになります。そのたびにあなたは時間ばかり奪われるのです。
けれど、あなたにも責任があります。お店を構えても売れる保証はありません。収益の柱が店頭売り1本しかないから、店で売れないとすぐに行き詰ります。赤字を埋めるため、家賃を払うため、問屋に支払いをするために閉店したあとコンビニでアルバイトをすることになります。
売れないと、お金がないとあせります。そして、そのあせりは困ったチャンがつけ入るスキを生むのです。
「あ、別に買わなくていいですよ。ネットで売れてますから」
あなたの心にこうした余裕があるだけで、買わないけれど寂しい僕の相手をしてください。買わないけれど!みたいな人間を相手にしなくてすみます。1円でも安くしろ!みたいなお客様に「定価で売らないと店がやっていけませんので無理です」と堂々とした態度で接することができます。
せめて生活できるくらいの売上げをインターネットで稼げるようになっておきましょう。それまでリアル店舗の開業を考えてはいけません。
【40年続く老舗模型店の生存戦略】
個人の模型店は、店売りだけではやっていけません。だからインターネットや自社通販でも売りましょう。それを実行している老舗の模型店があります。
横浜市で40周年を迎えたホビーショップ「滝口模型」さん。滝口模型さんは新羽駅からバス・徒歩含め10分ほどの少し寂しい場所にあります。
滝口模型さんが40年以上も生き残っている秘密を分析してみました。以下の5つが考えられます。
・価値ある在庫商品
・店主の目利きと丁寧な対応
・店主の人柄がいい
・自宅兼店舗
・自社ネット通販
です。
まず価値ある在庫商品。40年間も店をやっているため、他店にはないお宝の在庫が眠っています。また全国のファンからの問い合わせにも店主が真摯に対応しています。そして固定費。自宅でやっているから家賃がいらない。店主も続けられる理由として挙げています。
さいごは通販。ホームページはお嬢さんが制作。日本中の模型ファンに向け、店主は発送作業に追われる日々が続きます。
店売りと通販、2本の柱が滝口模型さんの経営を支えていると考えて間違いないでしょう。
【無料の危険性】
なんでも無料で手に入れたい。とにかく金を使いたくない。ここ数年、このような考え方をする人が増えています。
インターネットが普及するまで、玩具を買うのはお店が基本でした。ところがネットで安く買えるようになると、買うのはネットで。店では買わずに店が無料で提供するサービスのみ利用するようになりました。
いくつか具体例を挙げてみます。
・カフェで水だけ注文して席に座り、金を払わない
・カードショップで何も買わずに対戦スペースを利用する
・ボードゲームカフェで何も注文せずにティーチング(ゲームの遊び方)だけ受ける
・フィギュア店に子供を置いて父親が別のところで用をすませてくる(託児所かわり)
・フードコートのテーブルを何も買わずに利用する
・大会には出ないし、商品も買わないけれど限定プロモカードを寄こせ
・レストランに許可を得ず、食べ物をもちこむ
・他店で買って金が余ったら買う。だから話し相手になってくれと店員を相手させる(そして何も買わない)
このうちいくつかはわたしも実際に見たり、聞いたり、被害にあっています。無料を売りにすると、このように信じられないことをする人間ばかり集まってきます。
彼らはあなたの店が潰れてもかまわない思っているのかもしれません。思っていなくてもこんなことが続けば店は確実に潰れます。
それでもあなたは無料を売りにしますか。
【商売の常識が通じない時代に突入した】
自分が無料で楽しむためなら店は潰れてもいい・・・。
残念ながら何割かの人はそう考えているようです。タレントのマツコ・デラックスさんがテレビ朝日「マツコ&有吉 かりそめ天国」で、カフェで注文せずに席を占領する客について語りました。
「飲食店に入って席に座りながら何も注文をしない客がいる」とカフェ店員が番組に投稿して発覚しました。
その投稿に対し、有吉弘行さんは「民事裁判で訴えようよ。お金を払わないなら生意気にカフェ行くなよ、公民館行っとけ」とバッサリ。マツコさんも「公園で話しとけよ。これは論外ですよ。追い出しましょう。店側は言っていいでしょう」と、店側にとっては救われる意見をおっしゃいました。
ところが番組のアンケートによれば、およそ3人に1人が「カフェで注文しないのはアリ」と回答したのです。「お店の雰囲気だけ楽しみたい人もいる」「注文したいものがないなら仕方ない」と擁護する意見もありました。
マツコさんは、もう終わりだ・・この国と嘆き、有吉さんは店がつぶれていいんだよ。そういうやつらなんだよと呆れかえっていました。
飲食店にはいって席に座り、何も注文せずに居座る。本当にそれをやる、できる人間が増えている。商売の常識がまったく通じない時代に突入しました。
【何でも無料で手に入れようとする人間を寄せ付けない店づくり】
買わないけれど店員に雑談相手をしてもらおうとする困ったチャンに共通するのが「何でも無料で手に入れようとする」ことです。
ラーメン屋やレストラン、美容室では入店して注文をせずに5分と居座ることはできません。しかし模型店は違います。お客様のフリをすれば何時間でも居座ることができるのです。
そこで「注文しなければ」「買わなければ」「お金を払わなければ」居座ることができないお店づくりをしましょう。
具体的には以下の4つの方法があります。
・工作スペースや工具を時間貸しする
・カフェを併設し注文すれば工作スペースを使えるようにする
・商品を一定額以上購入したら、工作スペースを使えるようにする
・有料で模型教室を開催する
肩書きはホビーカフェ、ホビースペース、模型工作室などになります。ようは金を払わなければ長居できないお店にするのです。カードショップならデュエルスペース、ボードゲームカフェならプレイスペースを有料にしましょう。
商品の販売スペースを作ったり、予約を受けてもいいでしょう。キャンセルを防止するため、予約は全額前金が基本です。そして買ってくれた、予約してくれたお客様には工作スペース1時間利用券やコーヒー1杯無料券をプレゼントしてもいいですね。
無料で見ることのできる販売スペースを設置する場合は、困ったチャンや万引きに気をつけてください。
【無料違法サイトがなくなったら本が売れた】
漫画を無料でインターネットにて見れるようにしていた違法サイトが姿を消しました。
その数か月後、マンガ家の先生たちがツイッターで「違法サイトが消えたら印税が何倍にも増えた!」と喜びの声をあげています。違法サイト利用者が口にする「無料で見れても売上は変わらない」なんてこともありませんでした。
とくに個人店は売れなければ、利益ゼロどころか固定費や生活費でマイナスです。無料を求める人間を相手にすることが、個人店にとってどれほど危険なことか、わかってもらえたでしょうか。